ヒジキ養殖マニュアルを掲載しました。

刊行物にヒジキ養殖マニュアルを掲載しましたので

ご活用いただけると幸いです。

ヒジキ養殖マニュアル

1
ヒジキ養殖マニュアル
平成27 年3 月
愛媛県農林水産研究所水産研究センター
2
目 次
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
1.ヒジキとは・・・・・・・・・・・・・・・・・2
2.ヒジキの養殖方法について・・・・・・・・・・5
( 1) 種苗のロープへの挟み込み・・・・・・・・・・・・5
( 2) 養殖用種苗に必要な部位・・・・・・・・・・・・・7
( 3) ロープへの挟み込み密度・・・・・・・・・・・・・9
( 4) 養殖開始時期・・・・・・・・・・・・・・・・・12
( 5) ロープの展張方法・・・・・・・・・・・・・・・14
( 6) 付着生物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
( 7) 食害生物・・・・・・・・・・・・・・・・・・・17
( 8) 収穫時期・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
( 9) 適した漁場・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
(10) 養殖ヒジキの生長・・・・・・・・・・・・・・・21
(11) 天然ヒジキとの比較・・・・・・・・・・・・・・22
3.養殖用種苗の入手について・・・・・・・・・24
( 1) 種苗の種類・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
ア.天然種苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・24
イ.人工種苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・25
ウ.人工種苗の勧め・・・・・・・・・・・・・・・25
( 2) 種苗生産技術・・・・・・・・・・・・・・・・・26
ア.母藻採取および養成・催熟・・・・・・・・・・26
イ.採卵・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
ウ.採苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
エ.初期育苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
オ.海面育苗・・・・・・・・・・・・・・・・・・35
カ.人工種苗の摘み取り・・・・・・・・・・・・・41
キ.仮根再生株の活用・・・・・・・・・・・・・・42
4.ヒジキ養殖の収支計算・・・・・・・・・・・44
( 1) 支出・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44
( 2) 収入・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・45
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は じ め に
愛媛県の海域は、佐田岬半島を境に瀬戸内海と宇和海に大別されま
す。これらの海域では、地形、海洋環境を生かした様々な漁船漁業、養
殖業が発展しています。なかでも宇和海は、リアス式海岸の波静かな入
り江を利用した魚類、真珠母貝などの養殖業が盛んで、全国屈指の養殖
生産地として知られています。
愛媛県農林水産研究所水産研究センター(以下、水研センター)では、
真珠・真珠母貝養殖に使用する筏(以下、真珠筏)を用いた新たな養殖
対象種として、ヒジキの養殖技術開発に取り組んできました。本書は、種
苗の入手からヒジキの収穫までの一連の作業について、得られた成果と
知見を整理したものです。中には科学的な裏付けが得られていないもの
もありますが、現場に即した技術を中心に取りまとめました。ただ、記載
通りに作業すればヒジキ養殖ができるといったマニュアルではなく、各作
業の手順をお示しするものであります。したがって、本書を活用される皆
様におかれましては、記載される基本的な手順を元に海域、施設の条件
に応じた改良を加え、各々のマニュアルにアレンジしていただくようお願
いします。
最後になりましたが、技術開発にあたり、荒天の中、ヒジキ自生地や真
珠筏での調査や原藻の提供などご協力をいただいた全ての漁業者の皆
様に感謝いたします。
宇和海に広がる真珠筏
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1. ヒジキとは
ヒジキ(学名:Sargassum fusiforme)は、日本をはじめ中国、韓国沿岸
の各地に広く分布し、波の荒い岩礁域の潮間帯に密生して生育する褐藻
の仲間です。成体は、岩面に固着している繊維状根(仮根)から上に、茎、
主枝を伸ばし、直立する主枝から葉、気胞と小枝が形成されます。冬か
ら初夏にかけて、1~2mに生長します。
繁殖方法としては、仮根から発芽した新芽が新しい成体となる栄養繁
殖(クローン繁殖)と、雄株の精子と雌株の卵が受精した受精卵が発芽
体となり岩盤に付着して成体へと生長する有性生殖があります。成熟後
期になると、仮根を残して主枝は流失します。
ヒジキの生活史(出典 藻類の生活史集成 一部改変)
⑧卵⑩受精卵
(幼胚)
⑭幼体(秋) ⑬幼体(夏)
⑯茎と主枝の流失
(夏)
⑮幼体(冬)
⑥放卵
⑦放精
⑨精子
③雄性生殖器床 ⑤雄性生殖器巣
(初夏)
②雌性生殖器床
(初夏) ④雌性生殖器巣
①成体
⑱新芽(初夏)
⑲新芽(初秋)
葉 ⑳新芽(秋)
気胞
主枝

繊維状根(仮根)


造精器
造卵器
⑰古い仮根の流失(秋)
受精
栄養繁殖
有性生殖
⑫発芽体
⑪発芽体
⑳幼体(秋)
– 3 –
ヒジキの外観
ヒジキの生育域
は、潮間帯という
広い海の中でも極
めて限られたゾー
ンです。大潮の干
潮時に海岸線を水
平に見渡すと、干
上がる所に生えて
いる海藻から海水
中に漂う海藻まで、
高さによって帯状
に色分けされたよ
うに種別に群生し
ていることが分か
ります。このような
帯状分布は、
主枝
小枝
仮根
(繊維状根) 気胞

岩礁域(上)や防波堤垂直面(下)で干出するヒジキ
– 4 –
その海藻が持つ
海藻が持つ物理
的、化学的そして
生物学的要因に
対する耐性の違い
などに応じて順番
に並んでいること
を示します。常に
海水に没している
漸深帯と比較すると、
潮間帯は、干出による乾燥をはじめ、水温や塩分濃度の急変、葉状部か
らの無機塩類を吸収できる時間の限定、波浪、強い日射などの環境スト
レスにさらされるゾーンです。ヒジキがなぜこのようなゾーンを生活の場と
して選択するに至ったのか疑問は尽きませんが、今後の研究による解明
が期待されるところです。
さて、このような不思議な生態を持つヒジキですが、全国的に見ますと、
増殖を目的に、スポアバック法、岩盤清掃による環境整備などが取り組
まれてきました。これらの方法は元々ヒジキが生育していた場所での繁
殖と生長を助長することを目的とするものです。一方、水研センターでは、
海面に浮かぶ真珠筏を活用した養殖技術開発を目標に調査研究をおこ
ない、ヒジキが本来生育する潮間帯とはかけ離れた環境でも養殖が可能
であることを明らかにすることができました。それでは、次ページからヒジ
キの養殖方法、そして養殖に必要な苗(種苗)の入手方法などについて
ご提案します。
海中で直立するヒジキ
– 5 –
2.ヒジキの養殖方法について
我が国でおこなわれる海藻養殖の方法として、カゴに収容して垂下す
る方法、小さな海藻(種苗)を付着させたノリ網やロープを展張する方法
が知られています。ヒジキについては、種苗を撚りの隙間に挟み込んだ
ロープを海面に展張する「挟み込み養殖法」により養殖をおこないます。
宇和海では種苗を挟み込んだロープを既存の真珠筏に設置する方法に
よる海面養殖をおこないました。
ヒジキの挟み込み養殖法
(1) 種苗のロープへの挟み込み
養殖は、種苗のロープへの挟み込みから始まります。仮根やその直上
にある茎を含み、全長10cm 以上に生長した幼体を養殖用種苗に用いま
す。
種苗の良し悪しを見極めるには、多少の経験が必要ですが、選別には
2つのポイントがあります。まず、ヒジキの色や質感などが健全なものを
選ぶことです。種苗入手後、挟み込みまでの育成、保存環境が不適切だ
と、挟み込みの際に既にダメージを受けており、色や質感に何らかの変
化が認められる場合もあります。また、種苗に付着する他の生物(雑海
藻、小動物)が極力少ないものを選ぶことです。これらは当初は少量でも
養殖期間中に徐々に増加することがあります。新しいロープに種苗を挟
– 6 –
み込むということは、石灰散布して消毒した畑に種を蒔くのと同じです。こ
のような生物を取り除き、ひどい場合は種苗として用いないことが肝心で
す。
挟み込むロープは、一般的に直径10~14mm 程度の三つ打ロープが
用いられます。3本の撚りを解いた時に生じる間隙に種苗の仮根側を挿
入し、解いた撚りを戻すことにより種苗の位置を固定する方法で挟み込
みします。
この作業は迅速さと丁寧さが求められます。魚類などと比べると、スト
レスがダメージとなって直ちに発現しませんので、養殖漁場に移動した後
で作業中の乾燥、スレなどが影響した枯死、脱落などのダメージが発覚
することがあります。挟み込む前の種苗の管理と同様、作業中にも挟み
込んだロープへの灌水、早めの養殖漁場への移動などの配慮が必要と
なります。
種苗を挟み込む際には、種苗の仮根側から反対の主枝先端側にかけ
て、どの部位をロープで挟み込むか注意が必要です。仮根側をロープの
間隙に貫通させた種苗をスライドさせて、仮根がロープに密着した位置と
なるように、仮根直上の茎部を挟み込んでから、解いた撚りを戻すよう心
がけてください。その根拠については、次項で述べます。
選別した種苗 種苗のロープへの挟み込み作業
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(2) 養殖用種苗に必要な部位
前項において、「仮根やその直上にある茎を含む幼体」を養殖用種苗
とし、これらを「仮根がロープに密着した位置となるように、仮根直上の茎
部を挟み込み」すると述べました。漁業者の方々が挟み込む現場に立ち
会っていますと、ロープに無造作に挟み込まれていたり、千切れて仮根
や茎がない種苗もあります。また、1mの成体を10cm ずつ切断すれば、
10 本の種苗ができないのかというご質問を受けたことがあります。
主枝+茎+仮根
主枝+茎
主枝





種苗の切断部位
切断部位の異なる種苗の挟み込み状況
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そこで、仮根から主枝に至るまで欠損が無い種苗(主枝+茎+仮根)、
仮根を切除し、直上の茎、主枝が残る種苗(主枝+茎)および主枝のみ
の種苗(主枝を結束バンドで固定)の3種類を用意し、ロープの間隙に5
本ずつ挿入し養殖試験をおこない、生長を比較しました。
その結果、約10cm であった全長は切断部位に関係なく、ほぼ同様に
生長し、4月下旬には120cm 前後と大差はありませんでした。しかし、主
枝数については、主枝のみの種苗は脱落による減耗はあったものの新し
い主枝が形成されることは無かったのに対して、仮根から主枝に至るま
で欠損が無い種苗、仮根を切除し、直上の茎、主枝が残る種苗は、ほぼ
同様に新しい主枝が形成され4月下旬には2倍前後に増加しました。
切断部位の異なる種苗の生長 仮根、主枝の形成の様子
定期的に観察した結果、仮根や茎の残る種苗からは、1~2週間で新
たな仮根の発根が確認され、伸張し始めました。おそらく、茎には仮根を
再生する能力があるのに対し、主枝にはその能力がないと考えられます。
特に、仮根がロープに密着した位置となるように挟み込まれた種苗の仮
根は、誘引されたかのように、ロープに絡みつき、ロープから種苗の抜け
12/2
4/25
1/5
平均全長の推移
平均主枝数の推移
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落ちを防ぐストッパーとなりました。さらに、ロープに活着した仮根から発
芽した新芽(不定芽)が新しい主枝へと生長することが確認されました。
養殖収量を向上させるためには、種苗を長く生長させることも大事です
が、それに加え、主枝の本数を増やすことが必要です。そのためには、
養殖用種苗は仮根や茎が欠損していないヒジキを用い、ロープ上に新た
な主枝を形成させることが大切であることがお分かりかと思います。
(3) ロープへの挟み込み密度
魚類や貝類など多くの養殖対象種には、それぞれ成長に適した養殖
密度があり、収量増加を目的に過密に収容すると、成長が鈍ったり、病
気が発生することがあります。ヒジキの場合、種苗の挟み込み密度につ
いては、ロープに挟み込む間隔と1 つの間隙に挟み込む主枝の本数によ
り調整することができます。そこで、水研センターでは、以下の4種類で養
殖試験をおこない、生長を比較しました。
養殖試験に用いた挟み込み密度
その結果、次ページに示しますように、主枝1本ずつ挟み込んだ種苗
と比較して、5本ずつ挟み込んだ種苗の方がその後の生長が良いことが
分かりました。また、1本ずつ挟み込んだ種苗は脱落が多く、付着する雑
海藻が目立つなど5本ずつ挟み込んだものと比べて有利な面は認めら
10cm間隔1本挟み(11本/m)
5cm間隔5本挟み
(105本/m)
5cm間隔1本挟み
(21本/m)
10cm間隔5本挟み(55本/m)
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れませんでした。自生地では群落を形成することからも、ある程度密植さ
せた方が自然な姿に近いと考えられます。従って、5cm間隔で主枝5本
程度での挟み込みが適切と考えられます。
挟み込み密度別の全長推移
ヒジキの生育状況(上:5本挟み、下:1本挟み)
全長(cm)
試 験 区
0
20
40
60
80
100
120
試験開始時
1ヵ月後
2ヵ月後
3ヵ月後
1本挟み          1本挟み          5本挟み          5本挟み
10cm間隔          5cm間隔          10cm間隔         5cm間隔
5本挟み
1本挟み
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ここまでに述べた条件により作成した種苗ロープへが下の写真です。
挟み込みの際に参考にしてください。
種苗が適切に挟み込まれたロープ
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(4) 養殖開始時期
宇和海沿岸部に自生するヒ
ジキの幼体は秋から翌年の2
月頃までの間は主枝が形成さ
れない、いわゆるロゼット状の
幼体として生育しており、全長
が10cm 以上に生長し、挟み
込み可能となるのは、概ね2
~3月ですので、養殖開始時
期は自ずとそれ以降となりま
す。
しかし、後述しますが、宇和
海でも人工的に生長させたヒ
ジキは、自生地のヒジキと比
較して早く生長し、養殖用種苗
として使用することが可能とな
ります。そこで、12 月~翌年3
月の各月下旬に、宇和海で人工的に全長10cm 程度に生長させたヒジキ
を養殖試験用種苗としてロープに挟み込み、定期的に主枝の全長測定
をおこないました。
愛南町
7月中旬
愛南町
10月下旬
愛南町
1月下旬
愛南町
2月上旬
宇和海産天然ヒジキの全長推移
0
50
100
150
200
250
2/21 3/12 4/1 4/21 5/11 5/31
全長(cm)
月日
0
50
100
150
200
12/18 1/17 2/16 3/17 4/16 5/16
全長(cm)
月日
12月養殖開始分
1月養殖開始分
2月養殖開始分
3月養殖開始分
開始時期を変えて養殖をおこなったヒジキの全長推移
宇和海産天然ヒジキの生育状況
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その結果、12 月および翌年1月に養殖を開始したヒジキは、3月以降、
急生長し、4および5月には、生長差は認められなくなりましたが、2およ
び3月に開始したものは、12 および1月に養殖を開始したヒジキと比べて
明らかに小型でした。以上より、宇和海で人工的に生長させたヒジキを養
殖用種苗とする場合、12~1月が養殖開始適期と考えられます。
なお、12 月より早い時期に養殖を開始すれば、さらに高生長する可能
性はあると考えられます。水研センターでは、ヒジキの収穫後、海中に保
存した試験ロープの仮根から発芽し、10cm程度に生長した幼体(仮根再
生株、後述)を養殖用種苗として、9~11 月に養殖を開始しましたが、開
始して間もなく、カワハギ、ハリセンボン、アイゴ等の藻食魚により食べら
れてしまったことがあります(後述)。これらの魚類は、宇和海では水温が
高い時期には真珠筏周辺に謂集し盛んに付着物をついばんでいるのが
散見されますが、水温低下(20℃以下)に伴い姿を見ることが無くなりま
す。この時期に適切な食害対策を施せば、これらの種苗を用いて、9~
11 月から養殖することが可能になるかもしれません。
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(5) ロープの展張方法
種苗を挟み込んだロープの展張につきましては、以下の3つのポイント
に注意する必要があります。まず、1つ目は、挟み込んで間もない種苗へ
の対応です。前述しましたように、挟み込み後1~2週間で伸長し始めた
仮根がロープに活着するまでの間は、種苗はロープの撚りに挟まれてい
るだけなので、ロープが緩んでいると種苗が脱落したり、張りすぎると撚
りの締め付けで挟み込んだ主枝が切断されたりします。また、張り具合
は、一度調整しても波浪の強さや干満によっても変わりますので、こうい
う状況に応じて、張り具合や水深を再調整する必要があります。
次に、2つ目のポイントとして、
流れ藻対策が挙げられます。養殖
を開始する12~1月にかけては、
海面を漂う流れ藻が多く、種苗密
度が低い部分に絡まることがあり
ます。特に挟み込んで時間がたっ
ておらず、挟み込んだ種苗の間隔
が目立つ様な時期には、この部分
に絡みついた流れ藻が種苗を切断、
枯死させたりすることがあります。
最後に3つ目のポイントとして、
種苗の生長期における対応が挙げ
られます。仮根が活着し新しい主
枝が形成されると、挟み込まれた
だけであった仮根はロープに強固に
絡みつき、波浪などによる脱落は無くなり、ヒジキがロープに密生し流れ
藻が絡むことも少なくなります。こうなると、穏やかな海中に水没させてお
く必要はありません。ヒジキ本来の環境に近づける方が付着生物(珪藻、
貝類、甲殻類)の増殖や泥、ゴミの付着を抑えることができます。
このような事態に対応するためにお勧めの展張方法が、次ページの図
のように水面から30~50cm 層にロープを浮子と沈子で調整する方法で
す。
活着しつつある仮根
ロープに絡んだガラモ
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この方法は、養殖を開始した頃に
は、一見すると、ヒジキが自生する
岩礁域のような激しい波浪にさらさ
れる環境とはまったく異なるようで
すが、浮子と沈子のバランスにより、
ロープを適度な張り具合に調整し
ながら、波浪などによる衝撃が緩
やかな海中で仮根を活着させるこ
とができます。また、
水面からやや深い
位置に固定するこ
とにより、海面に浮
遊する流れ藻を絡
みつくことなく通過
させることができま
す。そして、仮根が
活着し新たな主枝
が形成される頃に
なると、主枝は伸長
するとともに気胞が
形成され浮上するため、
水面に達し自然と波浪にさらされるようになります。
海中で浮遊する種苗
ロープの展張方法
生長した養殖ヒジキが海面で漂う様子
– 16 –
(6) 付着生物
ヒジキや養殖ロープには様々な生物が付着し、ヒジキの品質を低下さ
せることがあります。岩礁域に自生するヒジキと比較すると、雑海藻、コ
ケムシ類などを中心に様々な種類の生物が確認されます。これは、本来、
干潮時に環境の急変により生育できない付着生物が、常に海水中に没
した環境では死滅しないためと考えられます。
ヒジキや養殖ロープに付着する生物(左;雑海藻、右;コケムシ類)
これらの生物のうち、一部の種類については前述した展張水深の変更
により、対応できます。例えば、海面で激しい波浪にさらすことにより、珪
藻、泥などの小さな付着物を振い落とすことができます。泥で出来た棲管
内に生息するゴカイ類が多数付着したロープを浮上させ、波浪に当てる
ことにより除去できたこともありました。逆に、アオサやアオノリなど海面
でしか生育できない緑藻はロープを一時的に沈下させることにより、枯死
させたこともありました。要するに、ロープの展張水深の変更により、生
息可能な水深帯が限定される生物の生育や増殖を抑制するものです。
それぞれの海域で、固有の生物が付着する可能性がありますから、必要
に応じて試してみてください。
ただ、3月以降、ヒジキや養殖ロープには多様な生物が増殖するように
なり、展張水深の変更だけでは対応が困難になるにもかかわらず、真珠
筏上では、自生地のヒジキのような干出による付着生物の除去はできま
せん。したがって、付着生物の無い種苗の選抜、付着の少ない漁場での
養殖、付着量が増加する前の除去など予防を心がける以外、確実な方
法は無いと考えられます。
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(7) 食害生物
養殖期間中の食害生物として、アメフラシ類、藻食性魚類に気をつけ
てください。
まず、アメフラシ類ですが、宇和海ではアマクサアメフラシという種類が
多く見られます。1月頃、養殖中の種苗を観察していますと、葉、気胞、主
枝などに食害跡が確認されることがあり、付近には小型(4,5mm 程度)
のアメフラシ(アマクサアメフラシ)が付着しています。4月頃になると
10cm 以上に生長した個体も見られます。
アマクサアメフラシの外観および食害跡
アマクサアメフラシが養殖ヒジキに付着したルートは不明ですが、ある
程度成長した個体には養殖ロープに泳ぎ着くほどの遊泳力があるとは思
えませんので、小型の時期に養殖ロープに付着し、離れることなく食べな
がら成長するのではないかと考えられます。
水研センターで実施した淡水浴試験では、数時間の淡水浴にも耐え蘇
生することが確認されており、ヒジキの方が先にダメージを受けてしまい
ました。現時点では効率的に駆除する方法は無いかと思われますので、
こまめに観察し、もしアマクサアメフラシを見つけた場合は、確実に捕殺
するようにしてください。リリースすると、再び養殖ロープに付着する可能
性があります。アマクサアメフラシは、ヒジキと似通った体色をしている上、
ヒジキの葉の陰に付着するため、食害跡が目立つようになった後で本種
を発見するケースもありますので、1月頃から適宜観察し、アマクサアメフ
ラシがまだ小型のうちに駆除するようにしてください。
次に藻食性魚類ですが、前述しましたように、宇和海では、12 月より前
に養殖を開始したヒジキは、魚類に食べられてしまいます。これらの魚類
– 18 –
がヒジキを食べなくなる12 月以降(宇和海では水温が20℃以下)に養殖
を開始するのが適切と思います。
魚類による食害跡
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養殖ヒジキの収穫作業
(8) 収穫時期
養殖ヒジキの収穫は、天然ヒジキと異なり潮汐に左右されないのが長
所です。したがって、天候や作業者、施設の都合などを調整しながら、計
画的に収穫作業をおこなうことができます。
ヒジキは3月以降、急生長するため、収量を増加させるためには、その
時期を引き延ばしたいところですが、それに伴い付着生物が増加します。
また、5月以降、養殖ヒジキは成熟に伴い、小枝や葉の形成が止まる上、
葉や気胞が脱落し収量が低下します。したがって、汚れの少ないヒジキ
を多く収穫しようとすると、収穫時期は4月後半が適していると考えられ
ます。ただし、環境や養殖開始
時期の違いにより、これらの時
期は前後することが考えられ
ますから、これらの事を念頭に
置きながら、収穫時期を決定
するようにしてください。なお、
収穫作業は、養殖ロープを船
縁に固定し鎌などでヒジキの
茎を刈り取ります。
以上、養殖開始から収穫まで期間中の工程を一通り述べました。その
流れを下表にまとめますので、参考にしてください。
ヒジキ養殖工程
11月12月1 月2 月3 月4 月
資材準備、種苗確保 こまめな観察、生育状況・環境に応じた対応 収穫、資材撤去
種苗の挟み込み
養殖開始
ロープ展張
アメフラシ駆除
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(9) 適した漁場
宇和海各地で養殖試験をおこなった結果、養殖成績は漁場毎に大き
な差が認められましたが、ヒジキ養殖の可否を判断できる環境条件を明
らかにすることはできませんでした。特に水温、塩分に大きな差はない隣
接する地先でも差が認められました。また、目前にヒジキが自生する磯
が見えても養殖ヒジキの生長が良くない真珠筏もありました。
ヒジキ養殖漁場(左;生育の悪い漁場、右;良い漁場)
現場で調査した日は限られますが、生育が良い漁場は波浪が大きい
海域でした。おそらく、ヒジキの健全な生育には、自生地の岩礁域に見ら
れる適度な波浪が必要ではないか
という気がしています。宇和海のよう
なリアス海岸では複雑に入り組んだ
湾ごとに環境が異なります。さらに湾
の開口部と季節風の方向により、湾
内でも波浪の強さは全く異なります。
適度な波浪のある漁場を見つけるに
は経験が必要ですが、同一海域でも
波浪の強さが異なる漁場で検討でき
るならば、展張水深の調整と併せて
検討する価値があると思います。
岩面で波浪を受ける天然ヒジキ
– 21 –
(10) 養殖ヒジキの生長
上記の手法を用いて養殖した結果を示します。
養殖ヒジキの生育状況
宇和海における養殖ヒジキの生長
養殖ヒジキは、3月までの生長は比較的ゆっくりしていますが、4,5月
に急生長し、長いものでは全長が3m、平均全長は1.2~1.4mに生長し
ます。また、ロープ1m当たり8kg 程度の収量(湿重量)が見込まれます。
12月2日1月14日2月3日
3月4日 4月6日 5月17日
– 22 –
(11) 天然ヒジキとの比較
天然ヒジキと養殖ヒジキを比較すると、いくつかの違いがあります。
まず、前述しましたように、養殖ヒジキは常時海面に没しているせいか、
収穫時期を誤ると、多くの生物が付着し、品質低下の原因となることがあ
ります。適切な収穫時期の見極めが天然ヒジキより大切となると考えら
れます。
一方、宇和海において養殖した人工種苗(養殖ヒジキ)は、地先の天
然ヒジキと異なる生長、成熟特性を持っています。人工種苗は早期に養
殖を開始できるため、下左図のように天然ヒジキより生長が早くなります。
それに伴い、下右図のように生殖器床を有する主枝の割合が同時期の
天然ヒジキより高く、早く成熟することが分かります。すなわち、養殖ヒジ
キと天然ヒジキの収穫時期は重複することなく、両者を収穫する場合で
も時期をずらして作業することができます。
養殖ヒジキと天然ヒジキの生長と成熟(2011~2012 年)
また、養殖ヒジキと天然ヒジキは同じ海域で育ったものでも形態に違い
が認められます。次ページに示しますように、天然ヒジキと比べて養殖ヒ
ジキは、小枝が長く生長し、同じ長さのものでも重たいことが分かりま
す。
このように両者に違いはありますが、肝心の味につきましては、試食テ
ストにより食べ比べを何度か実施しましたが、味の違いはほとんど区別
できませんでした。したがって、食材として鑑みても、養殖ヒジキは天然ヒ
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ジキと同等の価値があると思われます。
養殖ヒジキと天然ヒジキの形態
天然ヒジキ 養殖ヒジキ
(愛南町産) (愛南町産)
天然ヒジキ
(愛南町産)
養殖ヒジキ
(愛南町産)
全長:374cm
重量:814g
全長:274cm
重量:332g
0
50
100
150
0 100 200
養殖ヒジキ
天然ヒジキ
全長(cm)
全長と体重の関係
体重(g)
– 24 –
3.養殖用種苗の入手について
(1) 種苗の種類
種苗の入手方法としては、岩礁域に自生している小型のヒジキ(以下、
天然種苗)を採取するか、受精卵を基質上で生育させて小型のヒジキ
(以下、人工種苗)にまで人工的に生育させる方法があります。水研セン
ターでは、両方の種苗を用いて養殖試験をおこない、どちらも養殖用種
苗として使用可能であることを確認しました。種苗の入手におけるそれぞ
れの長所、短所は以下のとおりです。
天然種苗 人工種苗
ア.天然種苗
第一種共同漁業権の免許を受けた漁業協同組合の組合員は、免許さ
れた海域で自然に生えているヒジキを採取することができます。すなわち、
天然種苗を得るのに種苗生産という作業が必要ありません。後述します
が、種苗生産は、受精卵を採取する6月頃から幼体が全長10cm に生長
するまでの間の管理が必要となりますので、水槽や筏などの施設が無い
とおこなうことができません。逆に、自然任せの方法のため、主枝が生長
し摘み取り可能な時期になるまで、種苗の安定的確保の保証がない、天
– 25 –
然ヒジキを刈り取って収穫する漁業者との調整が必要、採取可能な時期
が潮位により限定されるなどの短所があります。また、他海域のヒジキは、
地元のヒジキと遺伝的に異なる形質のものもあることが分かっており、安
易に種苗を持ち込むことによる将来的な悪影響を否定できません。
イ.人工種苗
天然種苗の長所が短所、短所が長所となります。すなわち、技術が確
立すれば、毎年必要な養殖用種苗を人工種苗で調達することも可能です。
人工種苗は施設で管理するため、潮汐に関係せず養殖計画を立てるこ
とができる、種苗生産の時期を集約することにより、種苗のサイズを揃え
ることができる、自然災害、種苗の食害などにある程度対応できる、天然
種苗と比較して藻体に付着する他の生物(雑海藻、小動物)が少ないな
どの長所があります。
ウ.人工種苗の勧め
作業性を鑑みてみますと、養殖を含めて年間を通した作業が伴う人工
種苗の確保は、天然種苗より負担が大きいと思われるかもしれません。
しかし、養殖用種苗には仮根が必要であることから、天然種苗の場合、
岩盤から、文字通り、根こそぎ摘み取る必要があります。文献によると、
自生地で生育するヒジキの密度は2,500 本/㎡とされており、100mロー
プに天然種苗を挟み込むには、自生地4㎡のヒジキを摘み取らねばなり
ません。この摘み取りが、天然資源に与える影響は明らかにされていま
せんが、10cm サイズのヒジキを摘み取れば、その後のヒジキの収穫に
与える影響はないとは言い切れません。そうなると、天然ヒジキの収量が
減少するのみならず、養殖用種苗の確保も困難になり、両者が営んでい
くことが困難になります。採藻業者と養殖業者が共存していくには、採藻
業者が天然ヒジキを採取し、養殖業者は人工種苗を用いるという体制が
望ましいと考えます。水研センターとしましては、試験的な段階を終え、量
産規模での養殖に移ったら、養殖用種苗として人工種苗を使用すること
をお勧めします。
それでは、次ページ以降で、種苗生産の方法についてご紹介します。
– 26 –
(2) 種苗生産技術
ヒジキの種苗生産は、母藻採取、養成・催熟、採卵、採苗、初期育苗、
海面育苗の4つの工程から成り立っています。採卵から初期育苗までの
工程は、陸上水槽で、海面育苗は、海面の筏でおこないます。
ア. 母藻採取および養成・催熟
生殖器床が発達したヒジキを母藻として使用します。宇和海では、養
殖ヒジキは5月、天然ヒジキは6,7月とその時期は異なります。
作業は、母藻候補となるヒジキの採取から始まります。水槽内でも幼
体から養成・催熟させることも可能ですが、基本的には成熟間近まで海
面で育成した方が良いと思います。すなわち、自生地や養殖筏のヒジキ
を定期的に目視観察し、生殖器床の大きさから成熟状況を確認し、採取
成熟に伴う雌の生殖器床の形状変化
します。左上の写真にありますように、栄養成長期には葉や気胞の基部
に生殖器床は確認できませんが、成熟し始めると、小さな生殖器床が肉
眼でも確認できるようになります。雌の生殖器床の長さが2mm 前後にな
ると、左下の写真にもありますように、生殖器床の断面を顕微鏡で見ます
と、生殖器巣周辺に卵が形成されているのが分かります。このような状
態になると、約10 日後には、右上の写真のように卵を周辺にまとった生
拡大
すると
断 面
成熟が
進むと
生殖器床
– 27 –
生殖器床(左;雄、中及び右;雌)
殖器床(長さ3mm)を確認することができます。この卵は雄株から放出さ
れる精子と受精後、約1日で生殖器床から解離してしまいます。したがっ
て、現場で採取したヒジキに生殖器床が肉眼で確認できたら、採取する
のが良いと考えられます。
持ち帰ったヒジキは、ろ過海水を流水
する水槽に収容し、養成・催熟します。過
密に収容すると、海水交換が悪くなり、悪
影響があることがありますので、注意して
ください。特に、収容直後のヒジキは水槽
内に拡散していても、しばらくすると気胞
により水面に浮かび密集しますので、ある
程度まとまった量を収容するには、浅くて
広い水槽が便利です。収容後は、毎日、
ヒジキが健全であるか確認するとともに、
成熟状況を観察し、採卵に備えます。
同一の母藻群からは、1、2週間にわたって採卵することができますが、
採卵作業は、一度にまとめて大量の卵を採取するなど、効率的におこな
いたいところです。毎日観察していますと、母藻毎に成熟状況に差が生じ
てきますから、成熟状況をそろえた方が集約的、計画的に採卵すること
ができると考えられます。そこで、水研センターでは、機会を見て、主枝1
本毎に性別、成熟状況を確認・分
別しました。ヒジキの雌雄判別は、
生殖器床が小さい時には肉眼で
は困難ですが、生殖器床の長さが
2mm 前後になると、右の写真のよ
うにそのプロポーションの違い(雄
の生殖器床の方が細長い)で見分
けることがほぼ可能となります。雌
株については、生殖器床の大きさか
ら成熟状況を判断し、何段階かに分別します。
また、他種の海藻や小動物(ワレカラ、貝類)等が付着していると、へ
い死した小動物により水質が悪化したり、その後の種苗生産過程で、ヒ
流水水槽での母藻養成・催熟
– 28 –
ジキ以外の海藻が繁茂したりすることがありますので、確認・分別の作業
の際には、ヒジキを洗いながらこれらを除去しました。なお、水道水をか
け流すタンクの中で一本ずつ確認・分別作業をおこないましたが、その後
の採卵に支障はありませんでした。
母藻の分別後、ろ過海水を貯
水する水槽に成熟状況をそろえ
た雌および雄株を収容し、その
後は、こまめに目視観察し、成
熟状況を確認しながら、採卵に
備えます。なお、使用する水槽
は、成熟および卵の放出状況な
どを目視観察するのに、透明色の
ものが適しており、作業性も考えると、100~1,000ℓポリカーボネート水槽
が便利でした。
この方法ならば、生殖器床から解離した卵が水槽外に流出することは
なく、効率的に採卵することができますが、貯水したろ過海水は、海水の
泡立ち・着色、葉や気胞の脱落などが起こりますので、汚れ具合等に応
じて換水して母藻を健全に保つようにする必要があります。特に、屋外に
水槽を設置してこの作業をおこなう場合は、梅雨時期には、雨水が水槽
に流入したり、初夏には日射で水温が上がりすぎたり、天候が急変する
時期は母藻にダメージがありましたので、水槽上部に被いをするとともに、
適宜換水をおこなう必要があります。したがって、流水水槽から貯水水槽
への移送は、成熟状況を観察しながら判断する必要があります。また、
貯水水槽には、エアレーションをおこない、海水が流動するようにしてくだ
さい。エアレーションにより海水を攪拌することにより、水槽内の水質の
急変を防いだり、受精後、生殖器床に留まる卵が解離するのを促進した
りすることができます。
なお、収容密度は、ある程度の密度ならば、採卵数は母藻の量に比例
すると思いますが、母藻を隙間ない程に収容すると、海水の流動が無い
ため、水質が悪化し母藻が枯死することがあるので注意してください。雌
と雄株の割合および収容密度については水研センターでは検討しません
でしたが、割合につきましては、10:1程度で雌株を多く収容しました。
貯水水槽での母藻養成・催熟
– 29 –
イ.採 卵
母藻を水槽に収容し、養成・
催熟を開始してからは、毎日、成
熟状況を目視観察します。する
と、前述したように、周りに卵を
まとった雌の生殖器床が散見さ
れるようになります。この卵は水槽
内で雄株から放出される精子と
受精後、約1日で生殖器床から
解離し、水槽底に堆積しますの
で、その卵を採取します。まず、
母藻を水槽内で緩やかにゆすぎ、
生殖器床に留まる受精卵を海水
中に洗い落します。その後、水
槽内の海水を100 ㎛(0.1mm)ネ
ットの上に200 ㎛ネットを重ねた別
水槽(タライ)に流し込むことにより、濾過をおこないます。ほとんどの卵
は水槽底に堆積しているため、上澄み以上に水槽下部の海水はもれなく
回収するようにしてください。そ
の後、ネット上にろ過海水をかけ
流しながら、洗卵することにより、
純度の高い卵を収集することが
できます。なお、卵の回収が遅れ
ると、卵が水槽底に仮根で固着
してしまいますので、卵の放出が
始まれば、基本的に毎日この作
業をおこなう必要があります。
卵を放出し始めた母藻群は、1~2週間程度かけて日々放出する卵数
が増加し、放出のピークは、数日間続いた後、減少します。慣れてくると、
母藻の手触りの違いで分かってきますが、収容した頃と比べると、卵を放
出するピーク時にはやや母藻がしんなりとします。卵の放出を終える頃
になると、さらに軟らかくなり、葉、気胞の脱落や海水着色が目立つよう
生殖器床上で卵割が進む受精卵
ネット上に収集したヒジキ卵
水槽底に堆積する受精卵
– 30 –
になりますので、これらの変化を参考に効率的に採卵してください。
なお、水研センターでは、
後述する採苗作業の際に必
要なデータとなる卵数計数作
業の省力化を図るため、採卵
後100 ㎛上の卵をピペットで
沈殿管に採取後、しばらくして
卵の沈殿量を測定し、この値
に卵の沈殿量と密度の相関
(沈殿量1mℓ中に28.7 万粒の
卵が含まれる)から求めた係数を乗じて簡易的に卵数を算出しました。さ
らに、少量の卵を採苗器と同質の布片(5×5cm)上にも散布し、2日間、
静置後にルーペで同布片上の発芽体と卵を計数し発芽率を求めました。
平成24 年4 月27 日から7 月3 日にかけて、以上の方法によりおこなっ
た採卵結果を下に示します。日々の採卵に使用した雌株の重量は平均
14kg(2.5~30.0kg)と一定ではありませんが、平均580 万粒(46~1,768 万
粒)の卵を得ることができ、発芽率は、平均53.5%(10~93%)でした。
0
500
1000
1500
2000
4/27 5/7 5/17 5/27 6/6 6/16 6/26
卵数(万粒)
月日
養殖ヒジキ(人工種苗)
養殖ヒジキ(天然種苗)
天然ヒジキ(愛南)
0%
20%
40%
60%
80%
100%
4/27 5/7 5/17 5/27 6/6 6/16 6/26
発芽率(%)
月日
養殖ヒジキ(人工種苗) 養殖ヒジキ(天然種苗) 天然ヒジキ(愛南)
収集したヒジキ卵とその沈殿
採卵数と発芽率の日別推移
– 31 –
ウ.採 苗
水深30~50cmにろ過海水を
貯水した止水水槽に収容した
採苗器上に卵をジョウロで散布
します。散布した卵は、30~40
秒間に10cm のスピードで沈降
します。沈降した卵がムラなく
採苗器上に着底するように、収
集した卵をろ過海水で希釈しな
がら、水槽にまんべんなく散布
するように注意してください。
作業性を考えると、水槽の形
状は、浅くて広い方が良いと思
います。なお、採苗器への適正
な卵散布密度については後述
しますが、1 枚(1.2m2)当たりの
卵沈殿量が2.0~4.0mℓ(57~
115 万粒)が適切です。
ヒジキの卵は、石、コンクリー
ト、プラスティック、ロープ、塩ビ
パイプなど平坦な部分であれば、材質を選ぶことなく着底しますが、散布
した卵を無駄なく採苗するためには、水槽底面に隙間なく敷設できる平
坦な材料が効率的です。
そこで、水研センターでは、
採苗器として布地を採用しま
した。さらに、採苗器に用いる
布地の素材につきましても、
様々な検討をおこないました
が、白色のポリエステル製織
布が採苗時の作業性、育苗
時の耐久性、生残率などの面
から適していました。
水研センターで使用した採苗器
採苗器を敷設した水槽
着底したヒジキ卵
– 32 –
なお、布地を用いる場合は、後に海面育苗する際に用いる筏での作業性
を考慮して、敷設前に適切なサイズに切断したり、海水交換、耐波性を
目的に布地にスリットを入れたり、枠(塩ビパイプ)を通すための折り返し
縫製等をしておいた方が良いと思います。水研センターでは、2.5×5.0m
の水槽に前ページに示す1.2×1.0mに切断した採苗器10 枚(2×5枚)を
敷設し採苗をおこないました。
ただ、このように広大な水槽を所有する人はそれほど多くないと考えら
れますので、比較的小さな水槽でまとまった数の採苗器に採苗する方法
も検討しておく必要があります。
そこで考案したのが、下の写真にある小型水槽(1.0×2.0m)を用いた
採苗方法(重層採苗)です。すなわち、卵散布を終えた採苗器の上に新
たな採苗器を敷設し卵散布を繰り返す方法です。
水深30~50cm の水槽底に敷設した採苗器に卵を散布後、5分間程度
経過すれば、完全に採苗器上に卵が着底しますので、その間に次の卵
散布の準備をします。そして、新たな採苗器を卵散布済みの採苗器に重
ねるように敷設します。この方法のポイントは、新たな採苗器をいかに水
流を起こさずに敷設するかに係っています。可能であれば二人で両端を
持ち、卵が撒き上がったりしないようにゆっくりと沈降し重ねてください。こ
の作業を繰り返すことにより、平面的にしか活用できなかった水槽が層を
重ねることにより、飛躍的に採苗量を増加させることができるようになりま
した。
重層採苗の様子
– 33 –
エ. 初期育苗
飼育水の撹拌を目的に卵散布後、注水、通気を開始します。この作業
をおこなう季節は、梅雨により気候が急変することが多く、屋外水槽を使
う場合、大雨が流れ込んだり、強い日差しで水温上昇が懸念されること
があります。その場合は、卵散布
後、数時間経過し、卵が採苗器上
に着底しているのを目視確認した
上で、これらが巻き上がることが無
いように注水を開始してください。
順調に発生が進んだ卵は、採苗し
た翌日には一次仮根が発根し、布
地に根付いた発芽体となりますので、
徐々に注水量を増加するとともに通気するようにしてください。また、採苗
後4,5日後に採苗器を別水槽に移動したこともありますが、それによる
発芽体の脱落、枯死は認められませんでしたので、採苗水槽と別に初期
育苗水槽を準備できる場合は、移送することにより採苗の効率化が図る
ことができます。
なお、水研センターでは、採卵時に求めた発芽率から、採苗器を初期
育苗するか再採苗するかを判断しました。散布卵量と発芽率から発芽体
の密度はある程度見当がつきますので、発芽体数が適当と考えられる場
合は、そのまま初期育苗を継続しますが、少ない場合ならば、同一の採
苗器上に複数回卵散布し、密度を調整しました。ほとんど発芽体が生残
していない場合は、採苗器上の発芽体を洗い流して、採苗をやり直すこ
ともありました。
生長促進を目的とした施肥は、室内実験では添加による効果はそれ
ほど認められず、量産水槽では雑海藻が繁茂し、むしろ逆効果の方が目
立ちましたので、やらない方が良いと思います。
採苗直後の採苗器は真っ白な色ですが、微細な雑海藻が採苗器上に
徐々に増殖し、茶色や緑色に染まってきますので、濾過海水の注水量増
加、遮光幕展張により、増殖を抑制するようにしてください。しかし、これ
らを実施しても、付着する小型の雑海藻が増えすぎて、採苗器を被いつく
すことがありますので、ホースの口を絞って水圧調整した海水をかけて、
初期育苗の様子
– 34 –
これらを洗い流します。雑海藻
が目立つ頃には、健全に生育
したヒジキの発芽体は指でホ
ース口を絞った程度の水圧で
流失することはありませんが、
最初は様子を見ながら洗い流
すようにしてください。
10~20 日後に左の写真のよ
うに1,2mm の発芽体に生長
します。この間の生残率は、10~20%です。
さて、前項で述べました重層採苗ですが、やはり、そのままの状態で初
期育苗を続けていては、光量が足りず、表層側の採苗器しか発芽体は生
長しません。したがって、1層に展開する必要があります。ただし、下層の
ものはほとんど生長しないものの枯死することはなく、表層に移動すると
同様に生長します。したがって、発芽体が生長した表層の採苗器から順
次、沖出しする等、うまく工面すれば、下層のものもそのままの状態で初
期育苗することが可能です。
参考までに培養庫内で育成したヒジキ発芽体の初期生長の様子を下
に示します。初期葉と呼ばれる小さな葉が徐々に増加していくのがお分
かりかと思います。
ポリエステル織布上で生育する発芽体
ヒジキ発芽体の初期生長
5cm
←一次仮根
– 35 –
オ. 海面育苗
発芽体が1,2mm に生長し
た段階で、採苗器を海面に沖
出しして、水深0.5~1m 層に
設置して挟み込みサイズ(全
長10cm 以上)となるまでの間、
育成をおこないます。水槽から
水揚げした採苗器を海面に運
搬する際、折り畳んだ布地同
士が擦れて発芽体が脱落しな
いように丁寧に扱うようにしてください。また、発芽体は乾燥に弱いので、
海面に設置するまで時間がかかる場合は、海水をかける等して、乾くこと
がないようにしてください。採苗器を設置する際には水平になるように注
意してください。水平に設置し、日光の当たり方を均一とすることで、生育
ムラを無くすことができますが、布地に弛みや逆転があると、その部分の
種苗が生長不良となることがあります。
採苗器上には、当初、多数
のヒジキ発芽体が確認できま
すが、珪藻やヒジキ以外の海
藻が生長し、1ヶ月もしないう
ちに、幼体に生長しているは
ずのヒジキは、ほとんど目視
できなくなります。これらの海
藻については、育成する漁場、
沖出しする時期、設置する水深
に応じて、様々の種類が確認されますが、季節的に繁殖する海藻もあれ
ば、ヒジキと同様の生活史を持つものも見られます。前者(アオサなど)に
つきましては、神経質になる必要はなく、冬の到来とともに消滅します。し
かし、後者につきましては、注意する必要があります。
中でもヒジキと近い種類であるガラモ類(マメタワラ、イソモクなど)は、
幼体の時期に目視判別するのが困難なうえ、ヒジキと同様に生長し、海
面育苗後半に判別可能となる頃には手遅れになることがありました。
沖出しした採苗器
沖出し後、1ヶ月経過した採苗器
– 36 –
5~6月にかけては、ガラモ
類が流れ藻として漂いながら成
熟し、ヒジキ同様に卵を放出す
る時期でありますが、順次、沖
出しした採苗器上の人工種苗と
ガラモ類の生育状況を検証した
ところ、沖出しする時期がこの
時期と重なった採苗器がこのよ
うな状況になることが分かりまし
た。宇和海で海面育苗に失敗する理由の多くは、沖出ししたばかりのライ
バルが少ない採苗器上にこれらの海藻が滞留し、多量に放出された卵・
胞子が着底・発芽し、少しだけ大きいヒジキを追い越して生長し、駆逐し
てしまうことと考えています。
そこで、水研センターでは、成熟期前期である5/21 および後期の6/27
に得られたヒジキ卵を4種類の密度になるように散布後、23~26 日間、
初期育苗した採苗器をガラモ類が浮遊する6/14 と海面から消失後の
7/24 に宇和島市津島町地先に沖出しし、海面育苗をおこないました。
5/21採卵分6/27採卵分
11/22の育苗状況
5/21採卵分6/27採卵分
採苗器上に滞留するガラモ類
10/25の育苗状況
5/21採卵分6/27採卵分
9/27の育苗状況
5/21採卵分6/27採卵分
9/27 10/25
11/22 1/15
海面育苗開始時期の異なる採苗器上の生育状況
– 37 –
その結果、前ページの写真に示しましたように、10 月までは、5/21 採
卵分の方が生長が良いことが分かりました。しかし、写真では分かりづら
いと思われますが、5/21 採卵分には、ヒジキと色や形が類似したマメタワ
ラ、イソモクが混在していました。一方、6/27 採卵分は、11 月になるとよう
やく小型のヒジキ幼体が生えそろった状況になりますが、5/21 採卵分は
ヒジキ以外の海藻を除去してみると写真のように、6/27 採卵分と比較し
て主枝は長いものの、まばらにしか残っていないことが分かりました。翌
年1/15 になると、5/21 採卵分はマメタワラ、イソモクばかりが目立つ状況
になり、人工種苗(平均全長83mm)はわずかに残っていましたが、6/27
採卵分は平均全長133mm に生長したヒジキ群落となっていました。
続いて、定期的に計測した人工種苗数から算出した生残率を下表に
示します。
※主枝が形成された種苗は、主枝1本を1つの種苗として計数した。
採卵時および採苗~初期育苗までの間は、5/21 採卵分(試験区;1A、
1B、1C、1D)の方が、6/27 採卵分(試験区;2A、2B、2C、2D)より生残
率は高いですが、これは卵質(受精率など)の違いが影響している可能
性もあり、比較検討することはできないと考えます。しかし、11/29 までの
海面育苗においては、5/21 採卵分は、生残率が0.3~0.9%であったのに
対して、6/27 採卵分は8.2~13.9%と明らかに高い結果となりました。しか
も、引き続き海面育苗を継続した1/15 には、1つの種苗から複数の主枝
が形成されることにより、11/29 時点より多い主枝が確認されましたが、
その割合は6/27 採卵分の方が顕著でした。
散布卵数通 算
(万粒/枚) (採苗~海面育成)
(5/21) (11/30~1/15)
1A 14 18.2% 0.6% 143% 0.2%
1B 29 18.3% 0.3% 110% 0.1%
1C 57 10.6% 0.4% 189% 0.1%
1D 115 7.7% 0.9% 214% 0.2%
(6/27) (11/30~1/15)
2A 14 13.0% 13.9% 327% 5.9%
2B 29 11.8% 8.2% 340% 3.3%
2C 57 9.1% 11.2% 333% 3.4%
2D 115 10.9% 9.4% 248% 2.6%
50%
試験区採卵時海 面 育 苗
(7/24~11/29)
(6/14~11/29)
採苗~初期育苗
(5/21~6/13)
(6/27~7/23)
91%

各工程におけるヒジキ人工種苗の生残率
– 38 –
以上のことより、下図のように5/21 採卵分に沖出しした採苗器は、ガ
ラモ類の卵が着底・生育・繁茂することにより、人工種苗の生育が阻害さ
れていると考えられます。それと比較して6/27 採卵分は、当初の生長は
遅れますが、競合するガラモ類がいないため、生長生残ともに良好であ
ることが分かります。
実用規模で海面育苗をおこなう場合、ガラモ類の卵の着底を防除した
り、付着した幼体を駆除したりすることは不可能と思います。また、前述し
ましたように12~1月に養殖用種苗として挟み込み可能なサイズ(全長
10cm)に生長しているのならば、成熟期前期に採卵する必要性もありま
せん。したがって、ヒジキの成熟期後期である6~7月に採卵・採苗した
採苗器を成熟したガラモ類の漂着期を終えた7~8月に沖出しし海面育
苗をおこなうことをお勧めします。
続いて、次ページに採苗時の卵散布密度と1/15 の摘み取り時におけ
る人工種苗の主枝密度の関係を示しました。5/21、6/27 採卵分ともにこ
れらの間に高い相関があり、卵を多量に散布するほど、多くの種苗を生
産できることが分かります。特に、6/27 採卵分はその効率が良く、4mℓ
の卵を散布した採苗器は、1/15 には次ページの写真のようにヒジキの絨
採卵時期別人工種苗の生育状況
– 39 –
毯のように種苗が生育しており、主枝数を計数した結果、1枚の採苗器
(1.2×1.0m)に14,680 本生育していました。
さて、ロープへの挟み込み密度につきましては、5cm 間隔で主枝5本
程度が適切と述べました。この密度でロープ100mに挟み込むと、種苗が
1万本必要となります。2mℓ(57 万粒)のヒジキ卵を散布した採苗器(1.2×
1.0m)を適切な時期に沖出しした場合、上のグラフにもありますように1万
本程度の人工種苗を生産することができますので、採苗器1枚で100m
ロープ分の種苗をまかなうことができると試算されます。
漁業者の皆さんと養殖試験をおこなう中で、事業規模で養殖するなら、
100m ロープ10 本は必要というお話を聞きましたが、人工種苗を用いるな
らば、採苗器10 枚が必要となります。
y = 361.32x
R² = 0.8938
y = 3994.8x
R² = 0.8591
0
5,000
10,000
15,000
0 1 2 3 4
ヒジキ種苗主枝密度(本/枚)
散布密度(ml/枚)
5/21採卵分
6/27採卵分
採苗器への卵散布密度と海面
育成後の種苗主枝本数の関係
採苗器上に密生する
人工種苗
– 40 –
参考までに海面育成した人工種苗の生長の様子を下に示します。
ヒジキ人工種苗の生育状況
5cm
135 日目 161 日目 176日目
78 日目 85 日目 105日目
採苗後 23日目 34日目 57日目
– 41 –
カ.人工種苗の摘み取り
前述しましたように、養殖用
種苗には、全長10cm 以上に生
長した仮根や茎が欠損していな
いヒジキが求められます。右の
写真のように仮根は布地に固
着していますので、採苗器から
の摘み取りの際には、主枝を無
理に引っ張って、仮根や茎が千
切れないよう注意してください。
必要に応じてスクレーパー等で
仮根を剥離してください。また、
同一の採苗器上に生育する人
工種苗の中にも生長差が生じ
ますので、生長が比較的良い主
枝を選んで摘み取った後、採苗
器を再び海に戻し育成すること
により複数回の摘み取りができ
ます。摘み取った種苗は、速や
かにロープに挟み込むようにしてください。
なお、摘み取りが終わったポリエステル織布製の採苗器は、布地
上の付着物を除去することにより、次のシーズンの種苗生産に使用
することができます。
摘み取り作業の様子
採苗器(布地)上に伸長する仮根
– 42 –
キ.仮根再生株の活用
2種類の種苗(平成24 年12 月)
上の写真は、2種類の種苗を同時に撮影したものです。下側のロープ
は、平成24 年6月頃に採卵後、採苗器上で育苗し、12 月に真新しいロー
プに挟み込んだばかりの平均全長14cm の人工種苗です。一方、上側の
ロープは、1年前、すなわち、平成23 年12 月にロープに挟み込み、海面
養殖して、収穫後、海面に展張したままとなっていた平均全長47cm の人
工種苗です。また、1年前に5cm 間隔に5本ずつ挟み込んでいた種苗は、
間隔がなくなり、ロープ5cm に20~30 本の主枝が密生していました。
これらは、ロープ上
に残された仮根部か
ら栄養繁殖により発
芽した幼体であること
とから、水研センター
では、「仮根再生株」
と呼んでいます。
引き続き、養殖試
験をおこなってみたと
仮根再生株
(H23挟み込み)
人工種苗
(H24挟み込み)
0
50
100
150
200
11/7 12/7 1/6 2/5 3/7 4/6 5/6 6/5
全長(cm)
月日
人工種苗
仮根再生株
人工種苗と仮根再生株の生長比較
– 43 –
ころ、前ページの図のように人工種苗と比較して生長が良いことが分かり
ました。また、4月下旬に収穫したところ、人工種苗は、ロープ1m 当たり
6.3kg であったのに対して、仮根再生株は、23.2kg と収量も多い結果とな
りました。
これらのことから、仮根再生株は、養殖用種苗として非常に有望であ
ると考えられます。うまく管理すれば、種苗生産や天然種苗の採取どころ
か種苗の挟み込みをおこなう必要がなくなるのも夢ではないかもしれま
せん。少なくとも、仮根再生株は天然種苗、人工種苗と同様に養殖用種
苗となり得ると考えられます。
しかし、同様の管理をおこなっても、生育状況は漁場により大きな差が
見られ、漁場によっては、付着生物の脱落に伴いロープから仮根ごと脱
落したり、新芽が魚類に食害されたりし、下の写真のような順調な経過を
辿るのは一部の漁場にすぎません。安定的に仮根再生株を確保できる
ようになるには、まだ課題を残しています。
仮根から出芽した幼体の生育状況
9/14
10/25 11/30
12/27 1/17
9/28
収穫直後6/20
– 44 –
4.ヒジキ養殖の収入と支出
ヒジキ養殖は、真珠、
真珠母貝養殖業の副
業として位置づけられ
ており、既存の養殖資
材を流用することによ
り、元手をかけない養
殖を目指しています。
ヒジキを養殖するに
あたり、どのくらい費用
がかかり、どのくらいの収入があるか、一例として、真珠、真珠母貝養殖
業者が、既存の真珠筏に養殖ロープ1km(100m×10 本)を展張して養殖
する場合で試算しました。
(1) 支出
海面養殖に必要な物品を下表に示しました。これらのうち、養殖ロープ
は、種苗を挟み込みしやすい打ちの軟らかいロープは、真珠、真珠母貝
養殖で普段用いられるロープとは異質なものであり、購入する必要があ
ります。ただ、養殖ロープは何年にも渡って使い続けることが可能ですか
ら、2年目以降の支出は抑えられます。養殖ブイは、真珠、真珠母貝養
殖業で常用される直径30cmのブイで十分ですが、3~4mに1個ずつ装
着する必要があります。
続いて、種苗の価格ですが、天然種苗の場合は、市場で取り扱われる
こともなく、一定の相場と呼べるものもないのが現状です。一方、人工種
苗の場合は、種苗生産に必要な物品を準備する必要があります。下表に
必要な物品と標準的な価格を示しました。どの物品も長い期間(3年以上
は可)にわたって使用することができますので、2年目以降の負担はかな
ヒジキ養殖の様子
海面養殖に必要な物品
項 目金 額備 考
養殖ロープ(100m×10本) 70,000円14mmPPロープ
養殖ブイ(直径30cm) 240,000円100mに30個装着
合 計310,000円
– 45 –
り減らすことができますが、まとまった出費が必要となります。
また、表に挙げている物品以外に、初期育苗をおこなうための広い水
槽が必要ですが、水研センターのような公設機関以外では準備や設置に
おいてややハードルが高い面があります。試験はおこなっていませんが、
コンクリブロック等でロの字に作成した水槽枠にブルーシートを敷設する
等、一時的にプールのような水槽を設置できないか検討してみてくださ
い。
(2) 収入
100mロープ10本で養殖をおこない、1m当たり、8kgのヒジキが収穫さ
れたとすると、全体で8トンの収量が見込まれます。10%程度にまで乾燥
し、1,250円/kgで販売すると、100万円の収入が見込まれます。
以上のように収入を鑑みても、ヒジキ養殖は、副業の域を超えるもので
はないと考えられます。したがって、支出はできるだけ減らしたいところで
す。特に、種苗生産に必要な物品については、可能なものは代用する等
の工夫(例えば、水槽類を大型バットやポリペールで代用)してみてくださ
い。
項 目金 額備 考
ポリカーボネート水槽(500ℓ) 57,000円母藻養成・催熟用
バケツ、タライ、ジョウロ3,000円採卵用
ネット(口径100㎛) 24,000円採卵用
ネット(口径200㎛) 20,000円採卵用
採苗器(1.2×1.0m ポリエステル織布製) 107,000円20枚分
塩ビパイプ(採苗器枠) 13,600円20枚分(VP-20, TS-20)
採苗器係留ロープ(5mmPEロープ、200m) 2,500円海面育苗用
カートリッジフィルターハウジング10,000円海水ろ過用
カートリッジフィルター15,000円海水ろ過用
合 計252,100円
種苗生産に必要な物品